第101回箱根駅伝を制し、日本陸上界の顔になりつつある青山学院大学・原晋監督。
そんな同氏が『大阪万博開催記念 ACN EXPO EKIDEN 2025』通称・エキスポ駅伝参加にあたり実業団チームの強豪・ホンダを名指し批判したとのニュースが飛び込んできた。
青学大の原監督 エキスポ駅伝欠場のホンダを批判「経営陣に問いたい。こんな目立つ大会になぜ出ない?」
Hondaの不参加にはしっかりとした背景がある
記事曰く、「実業団と学生のガチンコ勝負にもかかわらず、実業団の上位チームが出ていない。特にHonda。なぜ出ないのか。経営者の皆さんは何を考えているんですかね。経営者に問いたい」と原晋監督が強い口調で語ったとのこと。ガチンコ勝負の土俵にすら上がらないことへの苦言だ。
あらかじめて言っておくが、これはエキスポ駅伝を盛り上げるための“演出”。ビッグイベントに向けた注目度を集めるために仕掛けたような恰好だ。北海道日本ハムファイターズの新庄監督しかり、連覇を目指す“ヒール”としてM-1グランプリに臨んだ令和ロマンしかり。これができる人は素晴らしい。
とはいえ全部が全部フィクションとも思えないのがミソ。Hondaの不参加にはしっかりとした背景がある。
箱根駅伝を目指す順天堂大に向かい風 例話の時代に“パワハラ指導”を……
“目指すべきもの”が違うだけの話
ニューイヤー駅伝2025の制覇こそ逃したが、Hondaが持つ選手層は実業団屈指。東京五輪の男子10000m代表・伊藤達彦、パリ五輪の男子マラソン代表・小山直城、さらには東京・パリ五輪の男子3000mSC代表に選ばれた青木涼真。オリンピアンがズラリと並んでいるのだ。
陸上カレンダーをみると、4月には日本選手権の1万mがあり、2・3月は別府大分毎日マラソン、大阪マラソンや東京マラソンといった“一走入魂”のレースに向けてピークを持っていく時期。9月に開催される東京2025世界陸上から逆算すると、1年以上前からスケジュールが組まれているといっても過言ではない。
エキスポ駅伝は万博記念公園をスタートし、大阪・関西万博の会場となる夢洲周辺をゴールとする約55km。最長距離は約12km、最短距離は約5kmと実業団トップクラスのランナーなら練習程度の距離だが、負担の大きいロードでの走りはリスクが伴う。どちらが良い悪いではなく“目指すべきもの”が違うだけの話だ。
世界を目指さないランナーが、世界で結果を残すことができるだろうか?
陸上界を盛り上げる原晋監督の仕掛けはさすがといったところだが、ひとつだけ「それはちょっと……」と思うところがあった。
「世界を目指すというのなら、世界で結果を残していますか、と問いたい」
あえて揚げ足取りをする。世界を目指さないランナーが、そもそも世界という土俵に上がることができるだろうか
青山学院大学とワンセットになっているのが、卒業後の伸びしろ。箱根駅伝に重きを置く同大学は第101回箱根駅伝において、山登りと山下りで他大学に大差をつけた。世界中探しても、あんな上り坂や下り坂で行われる国際レースは存在しない。つまり、箱根駅伝以外に使い道のないコース形態と言えよう。
5区で区間新記録を叩き出した若林宏樹は大学で陸上競技を終える。その決断に何の異論もない。しかし、駒澤大学の卒業生(田澤廉、鈴木芽吹)らは卒業後も駒澤大学を拠点にしつつ、「日本人選手が長距離種目において世界のトップを獲る」Ggoatプロジェクトを発足させた。篠原倖太朗、佐藤圭汰もその一員だ。
それぞれが、それぞれの道を進むで良いじゃないか。それを「こんなに目立つ大会になぜ出ないのでしょうか。なぜ、駅伝チームを持っているのでしょうか」と言われたところで「そちらの理屈を押し付けるな」で終わる話。私がイヤなのは、なんとなくHondaが悪者扱いされてしまう風潮にある。
私は原晋監督の手のひらで転がされてしまったようだ
先日、太田蒼生とSNS上で婚約相手と噂された女性が双方否定する出来事があった。大学生同士のことになぜ……との声もあるが、もう大学陸上長距離界はアマチュアスポーツの領域を超えた人気を博している。その地盤を作ったのは山の神・柏原竜二とメディアに露出することで知名度を劇的に上昇させた青山学院大学・原晋。この事実を否定することはできない。
自ら宣伝隊長となって大学陸上長距離界の価値を高めた原晋監督がいる一方で、日本人が敵わないとされた世界大会でのメダル獲りを目指す大八木総監督がいる。もう、それでいいと思う。
実に22日ぶりに記事を書きたくなるほど、私は原晋監督の手のひらで転がされてしまったようだ。俄然3月の戦いが楽しみになってきた。