國學院大学の優勝で幕を閉じた第56回全日本大学駅伝。
これで同大学は出雲駅伝と合わせて二冠達成。ライバルと目される駒澤大学・青山学院大学を2度にわたって撃破したのだからフロックとは到底言えないだろう。文句なしに強かった。
この記事では、全日本大学駅伝2024の回顧を実施。勝負の決め手を振り返るとともに、正月のビッグイベント・第101回箱根駅伝の展望につなげていきたい。
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全日本大学駅伝2024回顧・第101回箱根駅伝展望
國學院大学は“不動の6人”+経験者のオーダー
まずは優勝をはたした國學院大学のオーダーを改めて確認する。
2区……青木 瑠郁(3年)
3区……辻原 輝(2年)
4区……高山 豪起(3年)
5区……野中 恒亨(2年)
6区……山本 歩夢(4年)
7区……平林 清澄(4年)
8区……上原 琉翔(3年)
出雲駅伝を走った6人+昨年の全日本大学駅伝経験者・嘉数純平と高山豪起を加えたオーダー。「一戦一勝で勝ちに行くレースをしたい」と前田監督は戦前に語っていたが、その言葉を体現するが如く、隙のない戦力で臨んだ。
一方、5連覇を狙う駒澤大学のオーダーはこちら。
2区……桑田 駿介(1年)
3区……伊藤 蒼唯(3年)
4区……谷中 晴(1年)
5区……村上 響(2年)
6区……安原 海晴(2年)
7区……篠原倖太朗(4年)
8区……山川 拓馬(3年)
島子公佑、桑田駿介と出雲駅伝で存在感を示した新戦力に加えて、三大駅伝初出場の谷中晴、村上響、安原海晴を4~6区に配置。正直言って“博打”に近いラインナップだ。その選択肢を可能にしたのは絶対エース・篠原倖太朗と「平林君が出てきても勝つ自信は十分にあります」と藤田監督が自信を持って送り込んだアンカーの山川拓馬の存在。初出場組はなるべくプレッシャーのかからない区間を……そんな気遣いも感じられる。
続いては青山学院大学のオーダー。
2区……鶴川 正也(4年)
3区……折田 壮太(1年)
4区……黒田 朝日(3年)
5区……田中 悠登(4年)
6区……白石 光星(4年)
7区……太田 蒼生(4年)
8区……塩出 翔太(3年)
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「複数の新人に出番があるでしょう」と原晋監督は語っていたが、蓋を開けてみればデビューを果たしたのは折田壮太のみ。直前にアクシデントがあったのだろうか、想定外のスターディングメンバーだったことがうかがえる。後半区間を担える黒田朝日をあえて4区に持ってきたあたり、駅伝のセオリーである“先手必勝”を狙ったことは明らかだ。
魂を揺さぶられた吉田響の走り
レースが動き始めたのは2区から。創価大学の吉田響が桁違いのスピードで先頭集団を引っ張ると、1人、また1人と脱落するサバイバルレースの様相に。駒澤大学の桑田駿介はその集団に加わることすらできず、國學院大学の青木瑠郁もジリジリとその差を広げられる。
唯一食らいついたのは、青山学院大学の鶴川正也。都大路駅伝や出雲駅伝でも見た、ラストの叩き合いを制する勝ちパターンだ。「これは鶴川の勝ちだな」と確信めいた感情を私は抱いたが、そこから吉田響が粘る粘る。終わってみればタイム差なしでの襷リレー、魂を揺さぶられる走りだった。
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ともあれ、これで青山学院大学はライバル2校を引き離す理想的な展開に。3区を折田壮太がまとめ、4区黒田朝日は区間新記録の快走。あとは“ピクニックラン”でゴールテープを真っ先に切るだけだと思ったはずだ。そう、國學院大学を除いては……。
近年最強クラスにある國學院大学の“つなぎ”
國學院大学は5区に出雲駅伝区間賞の野中恒亨、6区にチームの準エース・山本歩夢を配置。これがハマッた。今年のストロングポイントとして指揮官も自信をのぞかせる“つなぎ区間”。この2区間で青山学院大学との差を1分23秒も詰めたのだから恐れ入る。野球に例えるなら“ダブルチャンス打線”といったところか。勝負は振り出しに戻った。
7区は青山学院大学・太田蒼生と國學院大学・平林清澄のエース対決。再三再四の揺さぶりを平林が耐えた時点で勝負ありだ。今季絶好調の國學院大学・上原琉翔が塩出翔太をおいでおいでする余裕綽々のレース運び。二冠達成の國學院大学が三冠に王手をかけた。
ところで、私は上原がレース中に“しゃべってた”内容が気になって仕方なかった。後続との差を確認していたとのことだが、普通に考えれば2分以上の差をひっくり返すのは不可能。だからこそ、最後の直線で駒澤大学の山川拓馬が2位に浮上したときは「えっ!?」と思わず声が出てしまった。単独走と暑さに強いロード型のランナーとはいえ、度肝を抜かれるととも恐怖感すら感じる走りだ。山川は相当強い。
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國學院大学に灯る“黄色信号”
4位創価大学、5位城西大学を含めて1~5位は出雲駅伝と同じ順番。選手層を考えると箱根駅伝は“3強”の争いが濃厚だが……私は全日本大学駅伝を結果を経て國學院大学に黄色信号が灯ったとの認識だ。
大前提として、箱根駅伝は10人が1本の襷をつなぐ特殊レース。全日本大学駅伝から2人がプラスされるわけだが、出雲駅伝の6人→全日本大学駅伝の8人ときて、箱根駅伝でその6~8人が“ピークの状態で”走ることはまず不可能。駒澤大学を例にとると、箱根駅伝2024は伊藤蒼唯、2023は佐藤圭汰が箱根路を踏むことができなかった。
國學院大学が“強いがゆえ”に起こったこととして、全日本大学駅伝では三大駅伝未経験者を使えずじまい。昨シーズンの駒澤大学も、強い4年生+篠原、さらに2年生3人が主軸を担ったがゆえに“プラスアルファ”の発掘に手が回らなかった印象。箱根駅伝で10人を揃えることは簡単ではない。
計り知れない上積みを得た駒澤大学
青山学院大学は“もうひとりの1年生”を起用できなかったのが誤算。結果的に4年生5人+箱根駅伝区間賞獲得の2人と、すでに計算が立つメンバーを起用し、ベストメンバーに限りなく近いなかでの3位だ。若林宏樹と宇田川瞬矢は箱根駅伝に向けた温存との見方もできるが、1年生時の岸本大紀、太田蒼生のような“起爆剤”がいるかどうか……出雲駅伝、全日本大学駅伝と続けてブレーキ区間が出現しているのも不安材料として重くのしかかる。
現時点でもっとも明るい展望が拓けたのは駒澤大学だろう。先のオーダーを見ればわかるように、1年生・2年生がふたりずつ、そのうち3人が三大駅伝デビュー戦というフレッシュな顔ぶれ。島子公佑は出雲駅伝に続いて区間1位と15秒差以内にまとめており、谷中晴、村上響、安原海晴もそれぞれ区間5位以内なら及第点。桑田は残念な結果に終わってしまったが、“外す経験”をしたことに大きな価値がある。篠原倖太朗も1年時の出雲駅伝は区間8位。そこからハーフマラソンの学生記録保持者にのし上がったのだから。
記録会・ハーフマラソンも選考の場に
第101回箱根駅伝まであと2か月。出雲駅伝、全日本大学駅伝で決まった大枠の主要メンバーに加えて八王子ロングディスタンス、日体大記録会、世田谷ハーフ、上尾ハーフなどを通じて当落線上のランナーがアピールの機会を与えられることとなりそうだ。前述の3強以外にも、小池莉希の復活次第では往路優勝が見えてくる創価大学も虎視眈々。ハイレベルの混戦ムードで迎える今年の駅伝シーズンは一団と面白い。